上顎前方牽引装置 フェイスクリブによる反対咬合治療

はじめに

フェイスクリブを使用した上顎前方牽引を臨床で行っているでしょうか?
大まかな効果は周知されているが、具体的に、『どこに効くのか?どうやって使うのか?』ということが曖昧なため、フェイスクリブを用いた治療の導入に踏み切れないといったところが本音ではないだろうか。
上顎骨の劣成長を伴う乳歯列の反対咬合の場合、容易には自然治癒しない。このような骨格性の問題に対しては、下顎骨の成長スパートが始まる前に上顎骨の成長促進をタイミング良く行う必要がある。それがフェイスクリブ(図1)を使用する一番の目的である。
治療の手始めにムーシールドを使用する場合においても、『原因が上顎骨の劣成長』であることがはっきりした時には、『フェイスクリブで上顎前方牽引』するなどの軌道修正が必要である。本来、この骨格的な不正と機能的な不正の診断には慎重さも必要とされるが、セファロから判断するのが困難な場合もあるだろう。ただ、遅いタイミングでフェイスクリブを使うことは避けたい。
使用開始時期についての筆者の考えであるが、年齢的には4~5歳で乳歯列完成期とし、できるだけ早く開始することを意識している。
なぜならば、前歯部の被蓋を改善することで、口腔周囲筋との調和をできるだけ良くしておきたいと考えているからである。この年齢になると患者はほとんどの装置に対応できるので、その点については問題ない。それよりも大事なことは、犬歯が萌出する頃には、上顎のダイナミックな前方への成長変化が望めないという事実である。
本レポートでは、上顎前方牽引装置として使用したフェイスクリブと口腔内装置について、実際のケースを交えながら概説したいと思う。参考にしていただけたら幸いである。

上顎前方牽引の方法 

「適応症例と適応時期」

上顎劣成長に起因すると考えられる反対咬合が適応である。自然治癒が見込まれるのは、構成咬合が可能なものとされている。ほかに、自然治癒は上下前歯の歯軸の変化によるものだという報告がある。5歳時での反対咬合者の、6歳~10歳までの顎骨の成長量は正常咬合者のそれと差がない。そのため、骨格性の乳歯列反対咬合の矯正治療は、まず額関係の改善を図ることから始める。
図2に咬合状態の時期による大まかな反対咬合の治療について示す

「セファロの活用」

矯正の診断に用いる重要な資料として、側面頭部エックス線規格写真(セファロ)がある。図3の被蓋が改善した患者の治療前後セファロを見て頂きたい。フェイスクリブを用いた治療効果は、上顎骨の成長を促進すると同時に下顎骨の成長を抑制するとされているが、使用してみると同じような効果を体現できると思う。その際、チェックしてほしいのが上下前歯の歯軸、上顎第一大臼歯の位置や口蓋平面の回転などであり、好ましくない変化を見る必要がある。軟組織の状態、口唇閉鎖の具合や舌の位置なども一時的な状態としてではあるが、有益な情報となる。
撮影の頻度であるが、治療前後はもちろんのこと、牽引期間が1年から2年程度となることが多いので、装置使用の途中でも、6ヶ月に1回程度の撮影を行うことが望ましい。

図2は後日挿入

「口腔内装置」

上顎前方牽引はフェイスクリブを適用する前に、まず初めに口腔内装置を装着することが必要である。口腔内の装置には、可撤式装置を使用する例もあるようだが、筆者はリンガルアーチまたはポータータイプの拡大装置などの半固定式または固定式装置を用いる。リンガルアーチの頬側に、牽引用のフックをろう着し、乳犬歯部でエラステイックがかかるようにする(図4矢印)。これは、上顎基底部の回転を起こさないようにするためである。

写真は後日、追加

フェイスクリブの調整

上顎前方牽引用の口腔外装置はChin capのもとにチンパッドから前方牽引装置を付加したホーンタイプのものがあるが、筆者は前東武とオトガイ部に固定源を求めた図のタイプのものを使用している。サイズはS、M、Lの3種類あるが、基本的にはSサイズを用意している。というのも、前頭部フレームの角度を変えてあるだけで、大きさ(外径)が同じだからである。顔貌に合わせてフェイスクリブの調整を行うことは、チェアーサイドでも可能である。それを容易にするには、把持できるプライヤー「KI式バー捻転鉗子#2 商品番号45512」(図5)が必要になる。
この調整は腕力のいる作業であるが、プライヤーでしっかり把持することと、溶接された箇所付近には、過度な力がかかるような把持を避けることがコツである。
筆者が行っている調整箇所は主に2ヶ所である。まずは前頭部の上下を合わせ、次に頬に強く当たらないようにするため、横幅の調整を行う。(図6)

写真

「牽引方向と牽引力」

牽引する方向には、『上顎に余計な回転をさせないような方向で引っ張る』というのが約束事としてある。とても肝心なことであるが、いざチェアーで確認となると難しい。そこで、初回は必ずフェイスクリブを付けた状態で顔面写真を撮り、次回からはその写真と比較しながら診療することを推奨する。
牽引する力はおよそ300から500グラムの範囲になるようにする。このときエラスティックが掛かるフックの位置は、およそ乳犬歯の位置にする。この位置にするのは、くどいようだが、余計な回転防止のためである。

「装着使用にあたっての注意」

患者の協力が必要な装置を使用するにあたっては、装置に慣れることがとても大事なことである。最初は就寝の1時間前から保護者の手で装着してもらい、違和感などを確認する。特に問題が無さそうであれば、そのまま寝てもらう。事前に、朝方に外れていても気にせず毎晩使うことを約束しておく。このフェイスクリブのパッドは非常に柔らかく、装着感は良く、蒸れにくいようだ。
口腔清掃の点から、口腔内装置の不潔になりやすいところは本人と保護者へのブラッシング指導を充分に行うことが必要である。

それでは実際の症例に解説を加えながら紹介していく。


症例は後日、追記していきます。

症例1

初診時4歳3ヶ月 牽引開始時5歳2ヶ月

症例写真は後日、掲載


フックを乳犬歯のやや根尖方向に位置させ、牽引方向が前下方へ向かうようにした。エステティックは顎関ゴムでHeavy, 1/4を8の字に連結して括り使用している。(図8、9)およそ2ヶ月後からはサイズを3/16に切り替えるなど、負荷する力のコントロールを患者に合わせて行っている。弾性を失ってはいけないのんでゴムは1日ごとに交換する。

牽引開始から5ヶ月後(5歳7ヶ月)

症例写真は後日、掲載

牽引開始から10ヶ月後(6歳1ヶ月)

下顎中切歯が萌出、前歯部の被蓋が改善され、牽引を終了した。その後は定期的に咬合チェックを行うが、犬歯の萌出に向けて、歯列のアーチの大きさなど注意深く診察することとなる。




図12 治療前後のセファロ

図13治療前(5歳1ヶ月)と治療後(6歳6ヶ月)の比較。

上顎骨が前方へと変化していることが認められる。実際にMcNamara lineに対してA点は0mmから1.1mmへと変化した。ANSも前方に変化していることが確認できる。これに対して、下顎骨は前方成長が抑制されている。また、口唇は自然なプロファイルへと変化している。また、上顎骨に意図しない回転が生じていない。繰り返すようだが、毎回の診察においては、口腔周囲の筋組織が機能的にも改善しているかという点も見ておくべきである。食事の時間や舌のポジションや習癖など、何か一つでも疑わしいものを見逃すと、次の治療ステップの妨げや後戻りなどの要因となる。

症例2

初診時年齢6歳0ヶ月 牽引開始時6歳2ヶ月





乳前歯の反対咬合が認められるため、上顎骨の前方牽引と同おじに前歯の前方拡大を図る。下顎前歯部は舌側傾斜が認められる。
将来、下顎前歯を適正な歯軸に改善することを考慮して、上顎は十分な前方牽引を必要とする。

牽引開始から3ヶ月後(6歳5ヶ月)





図15 症例2 6歳5ヶ月
乳前歯部の唇側傾斜を行うため、リンガルアーチに弾線をろう着している。年齢的には永久前歯の萌出が始まるが、被蓋は自然に治癒しないので乳歯の時期から治療をしている。下顎中切歯が萌出したが、舌側傾斜が認められるので、しっかりと前方牽引を行うこととする。

牽引開始から15ヶ月後(7歳5ヶ月)




図16 症例2 7歳5ヶ月
生え変わったばかりの上下顎の中切歯が正被蓋となったため、上顎前方牽引は終了することとした。側方への拡大を図るため、下顎にバイヘリックスを装着した。上顎の側切歯もスペース不足が予想されるため、上が開くはクワドヘリックスへと変更し次のステップに入る。

図17 治療前(6歳0ヶ月)と治療後(7歳5ヶ月)のセファロ

図18 治療前(6歳0ヶ月)と治療後(7歳5ヶ月)のプロファイルの変化

上顎骨の前方成長が促進され、それに対して下顎骨はわずかな前方成長となり、被蓋が改善されたと考える。

症例3

初診時年齢6歳5ヶ月

前歯部は顎裂を認め、反対咬合を呈する。


図19 初診時の口腔内
左側中切歯の遠心に過剰歯が認められるため、装置適用前に抜歯を行った。

牽引開始時(6歳9ヶ月)




図20 症例3 6歳9ヶ月
顎裂を有する場合、骨移植前には上顎に必要量の拡大を行う。そのために、矯正治療は前歯部の被蓋を改善することに加えて骨移植部の拡大も行わなければならない。今回は、スケジュールに余裕があったため、前歯部の被蓋を優先した。

牽引開始から6ヶ月(7歳3ヶ月)




図21 症例3 7歳3ヶ月
上顎左側中切歯を唇側傾斜させるために、リンガルアーチに弾線をろう着した。
前歯の被蓋を獲得するために、上顎前方牽引と歯軸の改善を行うこととした。リンガルアーチはSTロックを使用することが多いが、対合と干渉するために、主線をろう着している。

牽引開始から13ヶ月(7歳10ヶ月)




図22 症例3 7歳10ヶ月
被蓋の改善に約1年を要した。次に、上顎犬歯間の幅径をコントロールする計画とした。


図23 治療前(6歳5ヶ月)と治療後(7歳10ヶ月)のセファロ


図24 治療前(6歳5ヶ月)と治療後(7歳10ヶ月)のプロファイル


上顎骨の前方成長促進と同時に上顎中切歯の歯軸の改善も行った。このように、上顎の前方牽引装置を使用しながら、上顎歯列の前方拡大または側方拡大も同時に行うことが可能だ。
どこまで牽引するかということを考えた場合、ある程度マージンは築いておいた方が良い。というのも、下顎骨の成長スパートによって被蓋を維持できなくなるからだ。

まとめ

反対咬合の治療は、Ⅱ期治療が終了するまでの期間が長くなるために治療方針の修正を余儀なくされ、最初から思った通りにできるとは限らない。ファイスクリブは、準備が大変と思うかもしれないが、上顎骨を成長促進することにより、被蓋改善の予知性が高く、確実な方法であると思う。もちろん、咬合の安定性という点でも、前軸のみで被蓋を改善することに比べれば、大きなアドバンテージが得られるだろう。上顎骨の骨格性の劣成長かどうか診断し、乳歯列完成期や混合歯列の早期にこのフェイスクリブを使った治療計画を立てることは、矯正臨床において有益であるものと考える。

※薬事法を厳守するために、フェイスクリブの再使用はできないことに注意していただきたい。

参考文献

1) 廣田和子他:上顎前方牽引装置を用いて治療しいた乳歯列反対咬合症例について. 小児歯科学雑誌 28(3), 651-61, 1990
2) 阿部泰志他:低年齢期反対咬合に対する上顎前方牽引治療の術後変化について. 東北大学歯学雑誌 6, 1-12, 1987
3) 村上照男他:上顎前方牽引装置の若年者への適用による治療効果について─乳歯列期に末治療の反対咬合者と比較して─小児歯科学雑誌 30(3), 532-540, 1992
4)遠井由布子他:片側性唇顎口蓋列患者に対する上顎前方の効果および治療後の変化についての研究 昭歯誌 20, 241-251, 2000
5)曽矢猛美:上顎切歯歯槽部前方牽引(M.I.P)を応用したClassⅢの第Ⅰ期治療 矯正臨床ジャーナル2月号 29-32, 1994
6)夏目長門他:口唇口蓋裂Q&A140. 医歯薬出版. 東京. 2015

著者略歴

芝崎龍典(愛知県名古屋市)
歯学博士 日本矯正歯科学会認定医
平成10年 広島大学歯学部卒業
平成15年 広島大学大学院修了(歯学博士)
平成15年 広島大学医学部歯学部附属病院医員
平成16年 長崎大学医学部歯学部付属病院(矯正歯科)助教
平成21年 愛知学院大学(口唇口蓋裂センター)非常勤助教
平成25年 医療法人瑞翔会 浅見矯正歯科クリニック 理事長

■所属学会■
日本矯正歯科学会会員
日本口蓋裂学会会員
日本口腔インプラント学会会員

無料相談はこちらから
無料相談はこちらから